同じ物性名、異なる数値 — 二つの材料データシートは比較できるのか

単位と試験方法が一致するまでは比較できません。496 kgf/cm² は約 48.6 MPa ですから、496 と記載した供給元が 27 と記載した供給元より 18 倍強いわけではありません。単位の違いであって、性能の違いではないのです。さらに ASTM D638 と ISO 527 は試験片も試験速度も異なるため、同一材料でも異なる数値が出ます。JIS のフィルム試験はそのどちらでもありません。試験方法を伴わない数値は、単なる数値です。
技術的な課題
データシートが二枚。同じ物性。一方は 27 MPa、もう一方は 496。どちらの材料が強いのか。問いの立て方が違います。
熱成形トレー材料の供給元 TDS を四件、並べて確認しました。同じ引張強さという物性が、四通りの方法で報告されていました。ベトナムの製造元からは kgf/cm²、米国の樹脂メーカーからは ASTM に基づく MPa、中国からは ISO 527 に基づく MPa、日本からは JIS K7127 です。
購買担当者はこれらの見積を並べ、数値を比較します。しかしその数値は比較できません。
四件のデータシートの実際の記載
供給元名は伏せています。数値は原資料の記載どおりです。
| 供給元 | 材料 | 物性 | 記載値 | 単位 | 試験方法 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | PET シート | 引張降伏強さ | 496 | kgf/cm² | ASTM D638 |
| A | PET シート | 引張破断強さ | 281 | kgf/cm² | ASTM D638 |
| B | HDPE 樹脂 | 引張降伏強さ | 27 | MPa | ASTM D638 |
| C | PS(黒色導電) | 引張降伏強さ | 21.6 | MPa | ISO 527 |
| C | PS(黒色導電) | 引張破断強さ | 18.9 | MPa | ISO 527 |
| D | HIPS 導電シート | 降伏強さ MD/TD | 20.3 / 21.5 | MPa | JIS K7127-1989 |
二つの TDS を比較する前の三つの問い
1. 単位は同じか
1 kgf/cm² ≈ 0.0981 MPa により、496 kgf/cm² は約 48.6 MPa です。496 と記載した供給元が 27 と記載した供給元より 18 倍強いわけではありません。単位の違いであって、性能の違いではありません。
2. 試験方法は同じか
ASTM D638 と ISO 527 では試験片も試験速度も異なります。同一材料でも異なる数値が出ます。JIS のフィルム試験はそのどちらでもありません。
3. その数値はそもそもありえる値か
当社が保有するある TDS では、衝撃強さが ASTM D256 に基づき MPa で記載されていました。ASTM D256 は J/m で結果を報告する試験です。単位がありえない場合は、その紙面の他の記載もすべて疑ってください。
購買担当者が供給元に確認すべきこと
- 同じ物性を、同じ試験方法で、同じ単位で報告してもらう
- できれば 御社の 仕様に基づいて試験してもらう
- 数値に違和感がある場合は、供給元を順位付けする前に、その値がどの資料に由来するかを確認する
エンジニアリングノート
対策はメール一通で済みます。試験方法を伴わない数値は、単なる数値です。
Good packaging should be practical, not just presentable.